209 東阿保村の安養寺

本尊の阿弥陀如来像を中心に向かって右は親鸞聖人絵像。本尊の左側は蓮如上人像、その左は聖徳太子像。

 市役所の所在する阿保の地は、江戸時代前半までは丹北（たんぼく）郡阿保村でしたが、のち東阿保村と西阿保村に分かれていきました。明治八年（一八七五）に、東西両村が合併して、再び阿保村が形成されたのです。正保二年（一六四五）の郷帳（ごうちょう）に書かれた村の石高（こくだか）に東西阿保村が分けられていますので、このころまでに分かれていたのでしょう。

 このうち、東阿保村の今の阿保六丁目に真宗大谷派の安養寺（あんにょうじ）が建っています。寺の過去帳に、初代住職と思われる釋宗念（しゃくそうねん）が寛文十二年（一六七二）十月二十五日に亡くなったとありますので、寛文年間までに創建されたと伝えています。

 安養寺は、江戸時代後半までは本山の東本願寺の直末（じきまつ）ではなく、八尾に建てられた浄土真宗の由緒寺院である慈願寺（じがんじ）の下にありました。慈願寺は東本願寺に属しながら、河内を中心に摂津や大和などに三十か寺の末寺を持っていました（明治四年）。松原でも、安養寺の他、新堂の良念寺（りょうねんじ）、河合の称念寺（しょうねんじ）、上田の福應寺（ふくおうじ）、小川の不退寺（ふたいじ）もその末寺でした（「歴史ウォーク」94・97）。

 慈願寺に残る文書に、天和二年（一六八二）九月二十日に、安養寺に対して「木佛寺号御免状」「慈願寺下河州丹北郡阿保村惣道場安養寺」とあり、本尊の阿弥陀如来像と安養寺の寺号が与えられました。翌天和三年（一六八三）四月七日には「祖師御免状」とあり、開祖親鸞（しんらん）聖人絵像が下されています。さらに、翌貞享元年（一六八四）霜月（十一月）二十七日にも、東本願寺十四世の琢如（たくにょ）上人絵像が下付されました。正徳三年（一七一三）になると、聖徳太子像やインド・中国などの七高祖像もそれぞれ与えられています。

 今、寺に祀られるこれらの絵像には、年号は見られないものの、裏書があり、そのうち琢如上人絵像には「河州（かしゅう）阿保村惣道場安粮寺」とあります。聖徳太子や七高祖像にも、それぞれ「河州丹北郡阿保村惣道場安養寺」とあります。

 琢如絵像は、安養寺の「養」を「粮」と異なった表記をしていますが、ここで興味をそそられるのは、「阿保村」とあることです。先述のように、正保二年までには東西阿保村に分かれていたようですが、その後、八十年後の正徳三年の時点でも阿保村のままです。

 阿保村は初め幕府領であり、宝永二年（一七〇五）以降は関東の秋元氏の領地となりましたので、東・西の区分けは、それほど厳密ではなかったかもしれません。

 安養寺には、文政六年（一八二三）十一月二十一日、東本願寺二十世の達如が尼講に下した「御文（おふみ）」が蔵されています。そこには、「慈願寺下河州丹北郡東阿保村安養寺 尼講中」とあり、江戸時代後半には東阿保村は定着しています。

 さて、幕末の嘉永七年（安政元年、一八五四）六月十四日、大地震が起こり、松原地方も大きく揺れたようです。いわゆる安政の南海地震で和歌山・大阪などは甚大な被害を受け、多くの犠牲者が出ました。この時、安養寺では本尊の阿弥陀如来立像を守るため、台座や光背（こうはい）から本体をはずし、木箱に入れ安全な場所に保管しました。「御本尊様御箱」と書かれ、時の看坊（住職）であった鳳鳴（ほうめい）が大地震の様子を簡潔ながら、記しています。

 鳳鳴の二十年ほど前の天保七年（一八三六）、安養寺には大芸（だいげい）という二十歳の僧もいました。大芸は城連寺村（天美北）の最勝寺の恵学の紹介で、同年七月二十六日、日田（大分県）の私塾・咸宜園（かんぎえん）が堺に開いた広瀬旭荘塾（ひろせきょくそうじゅく）に入門しています（「歴史ウォーク」204）。

 なお、現在の本堂は昭和六十三年に改築されていますが、棟札（むねふだ）によると、そのもとは文政三年（一八二〇）四月上旬に、松原村新堂の大工棟梁、伊藤嘉兵衛豊久（いとうかへえとよひさ）らによって建てられたものです。江戸時代後半以降、新堂には伊藤氏や村田氏らの大工棟梁が数多くおり、安政二年（一八五五）に再建された、同じ真宗大谷派で西阿保村の西徳寺も、新堂の伊藤利助（りすけ）によって建てられています（「歴史ウォーク」156）。