200 MAsAko KAtoと柴籬住宅

更新日:2018年12月13日
軍人時代の加藤貞治の画像
写真裏に「Teiji Kato Oct,1941 Osaka」の画像

軍人時代の加藤貞治(昭和16年、個人蔵) 写真裏に「Teiji Kato Oct,1941 Osaka」と自署している。1941年10月、大阪城内の第4師団で撮影されたもの。

Masako Kato宅のポプラ並木の画像

Masako Kato宅のポプラ並木(昭和21年、個人蔵) 建物の西側に植えられたが、昭和36年の第2室戸台風で多くが倒れた。

1階のリビングルームの画像

1階のリビングルーム のち、教会の礼拝堂となり、部屋は2室に区切られたが、当時の暖炉はそのままである。今は牧師館図書室となっている。

河内松原教会の牧師館(柴垣1丁目)の画像

河内松原教会の牧師館(柴垣1丁目)

もとは、ドイツ人Masako Katoの邸宅。煉瓦造りの門柱も残る。右の建物は、増築された礼拝堂。

歌手渡辺はま子が所有したドイツ館から河内松原教会

 昭和三十年(一九五五)四月、柴垣一丁目、当時の新堂町に昭和初年ごろから開発されていた柴籬住宅の信徒宅に日本基督教団の松原伝道所が申請されました。市内初のキリスト教会の誕生です。二カ月後の六月には、礼拝場所を伝道所前の現在地に移し、やがて河内松原教会として大阪教区から認可されました。それが、今、井口牧師が住む牧師館です。ちなみに、南側の礼拝堂は、昭和四十四年(一九六九)に新増築されたものです。

 もともと、最初の礼拝堂である牧師館は昭和十年頃に建てられた二階建て洋館で、敷地一三〇坪、建物四八坪の個人住宅でした。ドイツを拠点に貿易に従事していた加藤一郎がハンブルクでドイツ人のMasako Kato(加藤正子)と結婚し、新居を柴籬住宅に移し、建てたものです。

 一郎は、ドイツ生活が長く、柴籬の家は二十前後となっていた息子の貞(てい)治(じ)とともに、正子が守っていました。

 正子は昭和十四年(一九三九)四月、府立富田林中学校(現富田林高校)に英会話の教師として赴任しました。

 市内松ヶ丘在住の小児科医であり、民俗学者でもある奥村隆彦さん(昭和二年生まれ)は、前年の昭和十三年に富中に入学し、二年生になって正子の授業を受けたお一人でした。奥村さんが正子のことを回顧した「菊(きく)水(すい)郷(きょう)」35号(富田林高校同窓会報・平成十五年)や富田林高『八十年史』(昭和五十六年)に、正子や洋館のことが、次のように語られています。

 正子は、大阪商大(現大阪市立大)で英会話の講師もつとめていました。ドイツ訛(なま)りの強い英語で、日本語がうまく話せない時もあり、教室には担任の英語教師も同席していました。彼女の髪の毛は銀髪で、つるなしの金ぶちの鼻眼鏡をかけていました。教壇に立った洋服の後姿は愛らしく、全校男子だけの中学で唯一の女性だったのです。授業中、生徒が彼女に"How  old  are you?"と質問したことがあり、先生は"May I ask?"をつけなさいと諭した後、"I am sixty three"と答えたということです。六十三歳でしたので、明治十年(一八七七)ごろの生まれだったのでしょう。

 奥村さんは電車通学で、河内松原駅から藤井寺方面に向かうと、南の柴籬の方に背の高いポプラ並木に囲まれた白い洋館がさえぎるものがないたんぼの中に見られ、一幅の油絵を見ているような美しい景色であったとも述懐されています。

 正子は、二、三年で教師をやめたようです。以後、陸軍軍人となり、通訳を任務とした貞治が洋館の主となっていきました。貞治は中国へ出征するのですが、同じく中国で歌手として兵士の慰問を続けていた渡辺はま子と知りあい、戦後の昭和二十二年(一九四七)、二人は結婚したのでした。渡辺は「シナの夜」「蘇州夜曲」などのヒット曲をとばし、当時のわが国を代表する流行歌手として有名です。

 貞治は結婚を機に、正子とともに、はま子の故郷である横浜に移りますが、柴籬の家は貞治・はま子の持ち家として残りました。空き家となった洋館には、アメリカ人宣教師のパーソンやビルスがあいついで間借りし、集会を行ったり、各地の布教につとめたのです。

 昭和三十年に教会が洋館を買う際、はま子は、貞治に代わって、歌の大阪公演を利用して、楽屋や柴籬の信徒宅を訪ね、よく交渉したと、当時を知る信徒さんが回想されていました。

 今では、ポプラ並木はなくなりましたが、建築当時の煉瓦造りの門や、一、二階の部屋にしつらえられたカラフルな暖炉とクローゼット一面のミラーなどもそのままです。戦前の正子・貞治邸は、河内の片田舎にあって、別世界の風景をかもしだしていたでしょう。  

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